梅干しの「土用干し」とは
土用干しとは
土用干しとは、夏の土用の時期に行われる年中行事です。梅の土用干しとは、6月頃に収穫し塩に漬けておいた梅を、梅雨明けの天気のよい日に、3日間ほど天日干しにして乾燥させることを言います。他にも、虫やカビ予防のために衣類や書物を陰干にしたり、稲穂をよく実らせるために水田の水を抜き乾かすことも、土用干しと呼ばれます。
土用とは
土用とは、季節の変わり目である、立夏、立春、立秋、立冬の、直前18日間ずつを表す言葉です。季節を判断する目安としては、古代中国考案の二十四節気(にじゅうしせっき)がよく使われます。より的確に季節や時期を捉えるために、日本独自で考えられた独自の暦(こよみ)の1つが「土用」です。
なぜ18日間なの?
18日間という日数は、古代中国の五行説(ごぎょうせつ)に由来します。この世の全ての物は「木・火・土・金・水」の5つの元素から成るとされ、季節は5つに分けて考えられました。1年は365日なので、5で割ると73日です。四季にそれぞれ73日ずつ割り振り、春は木、夏は火、秋は金、冬は水とされました。残りの73日を4つに分けた18日間ずつを、四季の間に入れ込んだのが「土用」です。
土用干しする時期と意味
土用干しする時期
梅を干すのは夏の土用の時期なので、立秋の18日前~立秋までの期間に行われます。つまり、7/20頃~立秋が訪れる8/8頃までの時期です。この時期に梅を干す理由は、天候のよさにあります。7月の土用の日は統計的に見ても天気に恵まれる確率が高く、空気もカラッとしており、梅を干す条件にピッタリです。
梅を土用干しする意味
梅を干す意味①殺菌効果
梅干しを干す意味の1つは殺菌です。太陽の光には強い紫外線が含まれており、微生物の働きの抑制や、殺菌作用を持っています。太陽の光で殺菌された梅干しは、傷みにくく長期保存が可能です。紫外線は、土用の時期を含む7月下旬~8月中旬がピークで、1日の中では朝9時~14時が最も強いです。
梅を干す意味②柔らかくなる
2つ目の意味は、実を柔らかくするためです。夜間も日中と同様に、そのまま干し続けます。夜の間に降りてくる露を吸い込み、次の日に再び太陽の光を当てることによって、柔らかい仕上がりになります。
梅を干す意味③余分な水分をとばす
3つめの意味は、余分な水分をとばすためです。他の食べ物も同じですが、水分は傷みや腐りの原因になります。含まれる水分が少なく乾燥していればしているほど、傷む心配が減り、保存性は高まります。
梅を干す日数とタイミング
梅を干すのに適した日数
土用干しの日数は、昔から「三日三晩」と言われています。時代とともに梅の品種は増え、気候も変化し、土用干しに適した日数が、三日三晩に当てはまらないケースもでてきました。三日三晩という日数は、あくまで目安として、干す日数は梅の状態を見て決めましょう。
干す日数は延ばしてもいい?
晴天が続くと思って土用干しを始めても、タイミング悪く雨に振られたり、曇ってしまう時もあります。3日干したとしても、太陽がでていなければ意味がありません。そんな時は、土用干しの日数を延ばして大丈夫です。逆に、日が強すぎて梅が乾燥しすぎるようであれば、日に当てる日数は減らして下さい。
梅を干すタイミング
梅を干す時期は、7/20頃~立秋が訪れる8/8頃の間で、タイミングとしては、晴天が続く時期を選びましょう。せっかく干しても、雨に振られては台無しになります。梅干しが濡れてしまった時は、水分をふき取り、焼酎スプレーなどで消毒し、また最初から土用干しをやり直さなくてはいけません。雨だけでなく湿度の高い時期も避けた方がよいので、天気予報をチェックし、ベストなタイミングを見つけるようにしましょう。
梅干しの干し方①道具をそろえる
必要な道具
- 保存容器
- さいばし
- 新聞紙やキッチンペーパー(汚れ防止に使用)
- 大き目のザル
- ザルの下に置くレンガなど
ザルの代用品
梅干しを干す際、上手に乾燥させたいのなら、機能的に考えて、大きめのザルが便利です。お持ちでない方や、室内で土用干しをするため、大きめのザルでは場所を取ってしまうとお困りの方は、以下の代用品をお試し下さい。
ザルの代用品①乾物ネット
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ザルの代用品なら、乾物ネットがおすすめです。梅干しを干すのは年に1度ですが、乾物ネットなら、室内でもベランダでも、野菜や果物、魚の干物まで干せ、用途が豊富で年中使えて便利です。こちらは3段ですが、1段でも十分使えます。カバーなしでも問題ありませんが、カバーがあると、ほこりや虫の混入も防げます。
ザルの代用品②プラスチックかご
おすすめのザルの代用品2つめは、プラスチックかごです。衣装や雑貨などの収納用に使っているもので構いません。底があみ目状で、平らで、比較的大きめのものが使いやすいです。大きさも程よいため、室内でもベランダでも使えます。
ザルの代用品③そばざる
おすすめのザルの代用品3つめは、ざるそば用のザルです。1つ1つが小さいので、干す梅干しの量によっては何枚も必要になりますが、100円ショップなどで手軽に手に入れられます。梅干しがくっつきにくい、竹製のものが使いやすいです。
レンガの代用品
レンガは何に使うの?
梅干しを干す時に大切なのは、乾燥しやすい状況を作ることです。レンガは、通気性をよくするために、ザルと地面の間に置くのに使います。乾物ネットなどを上からつるして使用される方は、レンガの用意はしなくて大丈夫です。
レンガの代用品
レンガの代用品は、ザルと地面の間に空間ができ、ザルが安定するならば、何でも大丈夫です。100円ショップなどで購入できる、発泡スチロール製のレンガブロックは手軽でおすすめです。発泡スチロール製なら、床も傷がつかないため、室内でも気にせず使えます。他にも、空の植木鉢や空き缶を代用品に使うなど、方法はたくさんあります。
梅干しの干し方②干す場所の確保
梅干しを干すのに必要なのは、太陽の光と風の通りのよさです。一軒家にお住まいであれば、日当たりや風通しのよい庭や、屋根の上で干されるとよいでしょう。マンションやアパートにお住まいの方は、ベランダでも十分干すことが可能です。ベランダで干すのが難しい時は、室内で干すこともできます。
ベランダで干す場合
ベランダは手すりで囲まれており、日の光が床に届かないことも考えられます。ベランダで干す際は、乾物ネットを使用するか、ザルを4本のひもで結び、S字フックを使ってつるすのがおすすめです。時間帯で日が当たる場所が変わるので、こまめに位置を変えてあげましょう。基本は夜もそのまま干しますが、排気ガスや虫などが気になる方は、夜には室内に取り込んでも構いません。
ベランダで干す場合の注意点
マンションやアパートの立地場所や階数によって、ベランダの環境は変わります。高層階は風が強かったり、低層階は排気ガスが多かったりするので、梅干しを干す環境に向いているかどうか吟味しましょう。時期的にクーラーなどを使う方が増えるため、室外機の位置にも注意を払う必要があります。室外機の目の前に干してしまっては、温風やほこりによって、せっかくの梅干しが台無しになってしまいます。
室内で干す場合
天日は窓ガラス越しでも効果があるので、庭やベランダに干せない場合でも、ぜひ室内で天日干しして下さい。梅干しは、家の中で一番日当たりのよい窓際に干しましょう。時間帯で日当たりのよい部屋が変わる場合は、タイミングをみて移すことをおすすめします。風通しをよくするために、昼も夜も窓は開けておいてく下さい。
室内で干す場合の注意点
室内で梅干しを干す時、梅から出た水分が下に落ちるため、床に新聞紙やキッチンペーパーを敷くことをおすすめします。干している間は、部屋に梅干しの香りが充満するため、気になる方は室内干しはおすすめしません。風通しをよくするため、ずっと窓を開けておく必要がありますが、無理な時は、梅に直接風が当たらない位置に扇風機を設置し、部屋の空気を循環させましょう。
梅干しの干し方③梅をザルに並べる
梅の並べ方
塩漬けの状態の梅を取り出す時は、消毒済みのさいばしか、清潔な手(使い捨てのゴム手袋使用も可)で行って下さい。1つずつキッチンペーパーで軽く水気をふき取り、ザルの上に並べていきましょう。水気をふき取る工程は省略してもよいですが、ふき取ることで梅の乾燥は早まり、ザルから滴り落ちる水滴も減って、床を汚さずに済みます。
並べる時の注意点
梅は重ならないように、できる限り1つ1つ間隔を空けて並べましょう。積み重ねたり、ピッタリくっつけて並べると、梅の乾燥状態にばらつきが生じ、バラバラな仕上がりになり兼ねません。次のひっくり返す工程の際、梅と梅の間に隙間がある方が作業しやすくなります。
赤紫蘇はどうする?
赤紫蘇は、その後の用途によって扱い方が変わってきます。赤紫蘇の漬物として楽しむのなら、そのまま清潔な容器に入れて保存して下さい。梅干しと一緒に保存したい方や、赤紫蘇ふりかけを作りたい方は、殺菌の意味も込めて、梅と同じく日に当てることをおすすめします。
赤紫蘇を干す方法
赤紫蘇は軽く絞り、ザルなどに広げて日に当てます。薄く破れやすいので、無理に広げなくて大丈夫です。梅干しと合わせて保存する場合、紫蘇に残る水分により、梅干しの状態が変わります。梅干しを柔らかく仕上げたいなら、紫蘇を干す日数は短めに、堅めにしたいなら長めにしましょう。赤紫蘇ふりかけを作りたい方は、カラカラの状態になるまで日に当て続けて下さい。
梅酢はどうする?
梅酢とは
梅を塩漬けにした時に、上がってくるエキスが「梅酢」で、赤梅酢と白梅酢があります。赤梅酢の赤色は赤紫蘇によるものです。日に当てることにより、水分が蒸発して塩分が濃縮され、赤梅酢は色鮮やかに仕上がります。常温で1年ほど保存でき、栄養価も高く、さまざまな料理に仕えて便利です。
梅酢を干す方法と注意点
梅酢を干す際、素材によっては日の光を通さない容器もあるため、フタは開けたままにして下さい。殺菌の意味もあるので、しっかりと紫外線に当てましょう。異物混入が気になる方は、ネットなどをかぶせて下さい。水分が蒸発しすぎると塩分濃度が上がり塩辛くなるので、干す日数は1日で十分です。
梅干しの干し方④天日干しする(1日目)
天日干しの方法
梅をザルに並べ終わったら、いよいよ日に当て干していきます。ザルを地面に置く際は、汚れ防止のために新聞紙を広げ、レンガなどで土台を作り、通気性をよくしてあげましょう。日に当たる位置にザルを設置したら、夕方まで干し続けます。室内もベランダも、同じやり方です。まんべんなく乾燥するように、1日に1度梅干しをひっくり返してあげます。
ひっくり返すタイミング
天日干し1日目の梅は、梅酢をたくさん含んでいる状態なので、柔らかく傷がつきやすいです。表面の水分が乾燥しすぎると、ザルにくっつきやすく、破れやすくなるため、1日目は早めにひっくり返してしまいましょう。タイミングとしては、日に当ててから1時間後くらいです。その後は夕方まで梅には触れなくて大丈夫です。
梅干しをひっくり返す方法
1日目の梅は破れてしまいやすくデリケートです。ひっくり返す際は、1つ1つ丁寧に作業して下さい。梅が柔らかすぎて、さいばしでは破れてしまいそうであれば、清潔な手(使い捨てゴム手袋使用可)で作業しましょう。ザルにくっつくのがどうしても心配な方は、梅を並べる前に、クッキングシートを敷くのも1つの方法です。
1日目の夜はどうする?
1日目の天日干しが終わった梅干しは、1つずつ梅酢の中をさっとくぐらせ、再びザルに並べます。梅酢に浸すことで、皮は柔らかくしっとりし、より鮮やかな赤色に染まります。夜も昼間と同じように干し続けて下さい。夜に干すと、夜露を吸い込み、柔らかい仕上がりになります。夜間外で干す場合、突然の雨に濡らさないために、屋根があるところに移動させるのを忘れないで下さい。
梅酢に浸したり、夜に干したりは必ずすべき?
梅酢に浸す意味は、梅干しを柔らかくすることにあります。梅酢を吸うことで、味も少し濃くなります。梅干しを堅めに、味は薄めに仕上げたい方は、梅酢に浸す工程は省いて構いません。同じように、夜露に当てるのも、仕上げたい梅干しの堅さによっては省いて大丈夫です。室内で干される方も同様です。
梅干しの干し方⑤天日干しする(2・3日目)
天日干し(2日目)の方法
干し方は初日と同じですが、ひっくり返すタイミングが変わります。1日干した後なので梅の水分が飛び、皮が破れる心配も軽減しているため、ひっくり返すタイミングは、朝の状態よりも乾いたころを目安にするとよいでしょう。判断が難しければ、朝~夕方の真ん中のタイミングでひっくり返して下さい。
天日干し(2日目)の夜の干し方は?
夜は初日と同じように干し続けますが、梅酢には浸す必要はありません。乾燥した梅干しは、水分の吸収がよくなります。何度も梅酢に浸すことで、その分塩分も吸うため、塩辛い梅干しになってしまいます。梅酢に浸すのは初日のみで大丈夫です。
天日干し(3日目)の方法
干し方は初日と同じ、ひっくり返すタイミングは2日目と同じです。3日間干してみて、乾燥具合が不十分だと感じる方は、梅の様子を見ながら1~2日、日に当てる期間を延ばして下さい。
梅干しの保存方法
梅干しの3つの保存方法
干し終わった梅干しは清潔な容器に入れて保存しましょう。保存方法は以下の3つです。
- 消毒済みの容器に入れて保存する。(赤紫蘇はこの時一緒に入れましょう)
- 梅干しを1度梅酢に浸し、梅酢とは別容器で保存する。
- 梅酢の容器に入れて保存する。
保存方法による違い
1は、干し終わった時とほぼ同じ状態(色・堅さ・味)での保存ができます。時間が経つと、梅干しから若干水分が出ますが、大きく変化する心配はありません。2は、1より柔らかく、より赤く染めたい方におすすめです。3は、乾いた梅が梅酢を吸いこみ、より柔らかに仕上がります。1や2に比べてかなり塩気が強くなるため、味を見ながら、場合によっては途中で引き上げるようにして下さい。
まとめ
梅干しは日本の伝統的な食品の1つです。季節を問わず梅干しを楽しめる理由は、優れた保存性にあります。梅干しが持つ高い保存性は、塩に漬けるのはもちろんですが、「土用干し」と言いう昔の人々の知恵のおかげです。自然の力である「太陽の光」の力を借りて作り出す梅干しは、美味しさも栄養も満点です。梅が手に入ったら、塩漬けにして、土用干しにチャレンジしてみて下さいね。
梅雨明けの時期に梅干しを天日干しにすることを「土用干し」といいます。