刺し子とは
刺し子とは、日本古来の伝統的な刺繍の技法です。かつては布の強度や保温性を高めるための生活の知恵として施されてきました。16世紀ころの日本で生まれたとされています。日本各地で古くから伝わる刺し子の技法があるため、発祥地はどこかわからないといわれていますが、東北地方で伝わる技術と伝えられています。
刺し子の種類
刺し子は一般的に、布に糸で幾何学模様を縫い込んだものを指しています。また、海外の刺しゅうのようにループや返し縫いなどの凝った技法は用いらず、すべて並縫いで作り上げられているのが特徴的です。刺し子は地域によってもその技法は異なり、大きく分けて2つの種類がみられます。
こぎん刺し
こぎん刺しは、主に青森県で広がった刺し子です。並縫いの針目の長さを変え、模様をつけていく手法です。かつては麻布を藍色や浅黄色に染めて縫いを重ねていました。こぎん刺しとひとくくりにしていますが、青森県の津軽地方と南部地方では異なる伝統があります。
津軽こぎん刺し
津軽こぎん刺しは、津軽地方に伝わる刺し子技法です。藍染の麻布に刺し子を施すのが特徴です。古典柄は「鱗紋(うろこもん)」といわれており、針は奇数目をすくい横に1目ずつずれるように縫い重ねていきます。その結果、正方形を菱型に見立てた形ができあがります。
南部菱刺し
南部菱刺しは、青森県の南部地方に伝わりました。浅黄色に染めた麻布に刺し子を施すのが特徴です。古典柄は「蕎麦殻菱(そばがらひし)」です。鱗紋と同じ意匠ですが、針は偶数目をすくい、横に2目ずつずれるように段を縫い重ねていきます。津軽こぎん刺しと違い、横幅があるひし形に仕上がります。
一目刺し
一目刺しとは、針目のピッチと運針の方向を変えて模様を作る技法です。麻布やさらしに施します。山形県の庄内地方で広がったとされており、「庄内刺し子」とよばれることもあります。古典柄として伝承された模様もありますが、それに派生して作られた作家独自の意匠性が高いのが特徴です。
津軽こぎん刺し、南部菱刺し、庄内刺し子を合わせて「日本三大刺し子」といわれています
刺し子に必要なもの【こぎん刺し編】
こぎん刺しを始める場合は布や糸を揃えるところから始まります。
①こぎん刺し用布
コングレス布は、針を刺すための穴がついている布です。海外の刺しゅうであるクロスステッチなどにも用いられます。針目が数えやすく糸もきれいに渡せるため、ひし形などの古典柄模様が美しく仕上がります。織りが粗い布で、こぎん刺しの武骨さもあわせて表現できるのもメリットです。
抜きキャンバス
リネンに直接こぎん刺しを施すとき、縫い目が見えづらいなどのデメリットがあります。抜きキャンバスを足掛かりにして刺しゅうを施すと、簡単かつきれいに仕上がります。
②こぎん糸
こぎん糸は、綿糸を撚り合わせた太めの糸です。ざっくりとした風合いでこぎん刺し特有の立体感ができあがります。
③こぎん針
こぎん針は針自体を細身に作り、コングレス布や糸を割らないように針先に丸みを持たせています。太い糸も通せるように針穴が大きめに作られているのが特徴です。また、複数の針目をすくえるように、長めに作られています。
コングレス布を使う場合は、クロスステッチ針や細目のとじ針でも代用可能です。
刺し子に必要なもの【一目刺し編】
一目刺しとこぎん刺しでは必要なものが異なります。間違えないように気をつけましょう。
①刺し子布
一目刺しは基本的にさらし布に施します。横幅の2倍の長さをとり、半分に折って正方形に縫い合わせてから一目刺しを始めます。規則的な模様を作るために、事前に目盛りを打ってから縫い始めるのが基本です。
方眼付き一目刺し専用布
あらかじめ、方眼ドットがプリントされた一目刺し用の木綿布もあります。晒に直接目盛りを打つ手間が省けるのがメリットです。1作品のみ試しに作りたい場合にも適しています。5mm間隔のドットなら、運針も揃いやすいですよ。
②刺し子糸
LECIEN hidamari 刺し子糸
参考価格: 352円
刺し子糸は、細めの糸から太めの糸までいくつかの種類があります。緻密な模様には細めの糸を使い、大きめの運針で一目刺しをする場合は、太めの糸を使うとよいでしょう。段染めの糸を使うと模様の中にいろいろな色が出てくるため、表情がある一目刺しの作品に仕上がります。
③刺し子針
針目のピッチや刺し子糸の太さにあわせて針を選びます。基本的にさらしに刺すため、こぎん針針とは違い先がとがっています。並縫いのため、長めの針を使うのがおすすめです。
刺し子の方法
刺し子は基本的に針目の長さ、運針の方向で模様をつくる技法です。こぎん刺しと一目刺しどちらの技法にも共通しており、直線の並縫いができれば、刺し子は簡単に始められます。
こぎん刺しの方法
こぎん刺しの基本は、横に糸を渡すことです。コングレス布の縦糸の本数をカウントし、横糸の針穴に針を刺して糸を渡していきます。1段目、2段目と図案にあわせてカウント数を変えて横に針を進めていくと、模様ができあがります。図案などは布に描き写さず、直接針を刺していきましょう。
刺し進めるごとに浮かび上がる模様にワクワク感が高まりますよ。
一目刺しの方法
一目刺しは、布に図案や目盛りを打ってから縫い始めます。布の縁を並縫いで一周縫い進めたのち、図案に入ります。まずは布の縦目を縫い進め、次に横目と同じ方向にのみ縫い進める手法です。
一目刺しの裏側は?
裏側に針と糸を出す方法と、針を出さず1枚目の布にのみ刺し子を施す方法があります。どちらの方法をとるか好みによって変わってくるでしょう。初心者は針を裏側に出す方法をとり、少し慣れてきたら裏側に出る模様も考えながら、針を進めていくことをおすすめします。
刺し子の使い道のアイデア
刺し子を施した布にはいくつかの使い道があります。使い道を知ることで応用作品やプレゼント用の作品をたくさん作れるようになります。
アイデア①ふきんなどの布小物
基本的に、一目刺しは花ふきんとして用いられます。花ふきんは、もともとカヤ織りふきんのことを指していました。しかし、刺し子のように模様を刺しゅうしたものも同様に花ふきんと呼ばれています。ただし縫い目が荒れやすいため、目隠しカバー感覚で使われています。
アイデア②半纏(はんてん)などの衣類
こぎん刺しは、布の強度を増すほか保温性を高めるために施された刺しゅうです。藍染の布にこぎん刺しを施し、半纏に仕立てられていました。こぎん刺しを施すと、布に糸を分量だけ厚みができるため暖かく着用できます。
アイデア③マスクやバッグにも仕立てられる
切り替えなど、こぎん刺しを部分的にあしらったバッグは、模様によって和風にも洋風にもなります。古典柄と藍染布で和風に、北欧風柄とリネンとの組み合わせで今どきのバッグにも変身可能です。こぎん刺しとバッグ自体の意匠次第で雰囲気が変わるのも楽しいですね。
一目刺し用のさらしは、マスクにも最適です。華やかな雰囲気が出せるため、人とは違ったマスクを使いたいときにおすすめです。1枚布に刺し子を施し、ガーゼや晒を重ねると使いやすく仕上がります。
出典:写真AC