カラスミとは
カラスミとは、魚のボラの卵巣を塩漬けにし、乾燥させたものです。その形が中国(唐)で使われていた墨の形に似ていたことから、唐墨(カラスミ)いわれているという説が有力です。承応元年(1652年)ころに、中国から長崎に入ってきたといわれています。
ボラの基本情報
分類 | ボラ亜系ボラ目ボラ科ボラ属 |
分布 | オホーツク海をのぞく北海道〜九州南岸の全国 |
卵巣が取れる時期 | 晩夏~秋の産卵期前の時期 |
河川や海など、さまざまな場所で見かける魚です。
日本三大珍味を紹介!
カラスミとこのわた、うにが日本三大珍味として知られています。
うに
三大珍味での「うに」は、生のものではなく塩を混ぜてペースト状に作り上げられた「塩うに」と呼ばれるものです。「うに塩辛」などと呼ばれることもあり、白飯や酒のアテによく食べられています。福井県で製造されている『越前雲丹』が有名です。
このわた
このわたは、ナマコの腸を塩漬けし熟成させたものです。ナマコはかつて「こ」と呼ばれていたことがあり、「こ」の「はらわた」だから「このわた」と呼ばれるようになったといわれています。
カラスミの作り方【注意点】
カラスミの中でもフグの卵巣にはテトロトドキシンという猛毒が含まれているので、3年間糠に漬けて熟成毒素をなくすのですが、ボラの卵巣は毒の心配はありません。しかし、ボラの卵は生臭みなどが残りやすいことと、時間をかけて熟成させるためいくつか注意したい点があります。作る前にチェックしておきましょう。
注意点①卵巣の皮は破かない
カラスミ作りは浸透圧を利用した仕込みが中心です。皮が破れてしまうと、卵が流れ出してしまう可能性があります。卵膜はある程度硬く簡単には破れにくいのですが、爪先などでうっかり破かないよう注意しましょう。
注意点②ヘソがついたままの卵巣で仕込みをする
カラスミを作る際、ボラの卵巣はほかの臓器とつながっていた部分(ヘソ)をつけたまま仕込みを始めます。卵が漏れ出さないようにすることと、浸透圧を作るため卵巣をそのままの形で保てるよう必要です。水分を抜くまで外れないように丁寧に扱ってください。
注意点③鮮度が良いもので扱う
画像左側は全体的に黒ずんでおり、うっ血しているように見えます。時間が経過してしまった証拠で、鮮度に影響が出ています。鮮度が低くなったものでも、カラスミは作れますが、仕込みの段階で血抜き作業を丁寧に行うほか、下準備の段階の塩への漬け方の時間を長くするなどの工夫が必要です。
カラスミの作り方【仕込み編】
銀座渡利の板前さんの動画を参考に、カラスミの作り方をまとめます。今回はみそ漬けを方法を紹介しますが、塩の漬け方やみその漬け方などポイントがたくさんあるので、覚えたうえでチャレンジしてくださいね。
①血抜き作業
ボラの卵巣には表と裏があります。血管が見える裏面を上にし、血抜きの作業を行います。
血管の上から数ヶ所針を刺し、血が抜けるルートを作ります。穴をあけすぎると、皮が破けやすくなります。太い血管の上に針を刺すなど工夫をしてください。
針で刺した穴に向かって、指先などでゆっくり血を押し出していきましょう。この作業を丁寧に行うほど仕上がりの生臭さはなくなっていきますが、時間をかけてしまうと鮮度が落ち、抜けていくはずの血が卵巣全体に回ってしまうので注意してください。
卵巣の表側も確認し、気になるようであれば血管に針を刺して目に見える血を追い出してください。
②水漬け
ある程度血が抜けたら、バットに真水と氷を準備します。量は卵巣がしっかり浸る程度です。
バットに卵巣を裏面を上にして並べて、完全に血抜きをしていきます。変質を防ぐために冷蔵庫で保存しながら様子を見てください。真水を使うため、浸透圧によってボラが持つ生臭い汁も流れ出ますので、6時間ごとに水を取り替えてください。24時間ほど寝かせるとよいでしょう。
24時間経過したものです。臭みが残る汁は卵巣から流れ出て代わりに真水が卵の中にしっかり入りこんでいる状態です。血管からも血がしっかり抜けていることがわかります。キッチンペーパーなどで軽く水分をふき取り、次の工程に備えます。
カラスミの作り方【塩漬け編】
カラスミ独特の食感と硬さを出すためには、ボラの卵巣の中に入っている水分を押し出す必要があります。次は、塩の浸透圧を使って卵巣に入り込んだ水分を追い出しましょう。それと同時に、塩分の下味をつける工程になります。
①バットに卵巣を入れる
バットに土台となる塩を適宜入れたのち、ボラの卵巣を入れていきます。並べたら、その上から塩をまぶしこんでいきます。
塩の漬け方が不十分だと変質する可能性があるため、塩分を均一に入れることも含めてへその部分や二股に分かれた部分にはしっかりを塩を当てておきましょう。この時には、卵巣が重なり合わないよう注意して並べてください。
このままの状態で24時間ほど冷蔵庫で寝かせます。
時間が経過すると、浸透圧の影響でボラの卵巣から水分が流れ出ます。まだ生臭さが残るものですので、出てきた水分は都度流していきましょう。水分と一緒に塩が流れ出てしまった場合は、塩を足すことも一案です。また、塩を漬け方を一定にするため定期的に天地替えと位置ローテーションをしてください。
使用する塩について
銀座渡利の板前さんは藻塩と自然塩を任意の割合で混ぜたものを使っています。ミネラル分が豊富であることと、海産物が持つうまみを引き出す効果があるためです。
塩の種類を覚えておこう!
- 精製塩:輸入塩を溶解し結晶化、精製したもの
- 自然塩:海水を煮詰めるほか、乾燥させるなどで凝縮し取り出したもの。天然塩
- 藻塩:自然塩を作る工程で、海藻も一緒に煮詰めて作られたもの
②塩を洗い流し熟成させる
24時間経過したボラの卵巣です。表面についた塩分を流水で軽く洗い流してください。
見た目はカラスミに近くなりましたが、また塩が中心部まで至っていないことと、水分がしっかり抜けきっていないという状態です。万全に水抜きをするために、追熟をさせていきます。
塩を洗い流した卵巣は表面の水分を拭いたのち、キッチンペーパーでくるみます。
卵巣内部に浸透した塩はまだそのままなので、中心部に残った水分は出続けます。バットの上にざるを置き、卵巣を並べると、水分がバットに落ちるので臭み抜きになります。気になるようであれば、6時間後に一度キッチンペーパーを交換するとよいでしょう。ひと晩ほど追熟させてください。
脱水シートを使う方法
ニューピチットロール
参考価格: 2,544円
フィルムを使用した浸透膜シートです。これにボラの卵巣を包むと水分がフィルムの中に入っていくため、水分がしっかり抜けていきます。バットに水が残ることもないので、調理器具をあまり汚したくないという場合にもおすすめです。
カラスミの作り方【塩抜き編】
仕込みの最後の工程です。このままでは塩味が強いうえ、味噌のうまみが入っていかないので塩抜き作業を行います。
①へそを外す
カラスミの形を作るために、へそから卵巣を外します。卵巣とへそをつなぐ根元を、ひと房ずつタコ糸などできつめに結索します。
塩抜きの工程で、再び水分を帯びたボラの卵が肛門から飛び出さないようにするための措置とも考えられています。紐で口を閉じることで、卵巣から卵が漏れ出すことも防げます。
ひもで結索した後で、ひもの上からキッチン鋏を入れてヘソと切り離します。鋏を入れるときは、卵巣の幕を壊さないよう丁寧に作業してください。
これで、カラスミの原型ができあがりました。
②塩抜きをする
塩抜きをするために日本酒を使います。辛口、甘口いろいろな種類がありますが、好みのものを使って構いません。浸透圧で塩を抜くほか、日本酒がもつうまみをカラスミに入れていく意味合いがあります。
バットに入れた日本酒に卵巣を浸して塩抜きを行います。塩抜き時間は、塩漬けにした時間と同程度と見積もっておくとよいでしょう。ただし、卵巣の大きさや塩の漬け方などによって時間が前後することがあります。今回は24時間塩漬けにしたので、24時間ほど冷蔵庫に入れて塩抜きを行ってください。
24時間経過後の卵巣です。日本酒を含んだためふっくらとした形になりました。この形が「カラスミ」といわれるようになったゆえんです。ここから、本漬けに移ります。
カラスミの作り方【みそ漬け編】
味噌に漬けて、日本酒の水分を抜くことと、味噌が持つうまみを卵巣の中に含ませていく工程に入ります。塩抜きした卵巣の水分をキッチンペーパーでふき取ったのち、新しいキッチンペーパーで卵巣を1本ずつ包みます。味噌が直接卵巣につかないようにするための準備です。
①漬け地を作る
今回の漬け地は西京味噌と赤みそを好みの割合で混ぜたものを使っています。味噌は好みのもので構いませんが、塩抜きしたときに使った日本酒と相性が良い味噌を選ぶのもよいでしょう。バットに土台となる漬け地を敷いてください。
味噌が固い時には、少量のみりんや日本酒で溶き伸ばすと使いやすくなります。漬け方が長くなると、卵巣にしみた日本酒がにじみだし味噌がゆるくなっていくので、初めからゆるくしすぎないでください。
②漬け地に漬けていく
卵巣をバットに並べたのち、上からさらに味噌をのせ卵巣をしっかりと覆ってください。味噌で全体を覆うようにたっぷりと味噌を使うのがポイントです。
このままの状態で5日~7日ほど味噌に漬けます。浮いてきた水分は都度丁寧に捨ててください。また、味噌の漬け方が偏る可能性があるので、途中で配置換えを行ってください。味噌はつぎ足す必要はありません。
卵巣が小さいものは5日程度、大きめなら7~10日漬けこんでください。
カラスミの作り方【乾燥熟成編】
5日程度経過した卵巣です。カラスミの完成形に近づき、身がしまって硬くなっています。ただし、まだ水分は完全に抜けきっていないので乾燥熟成させていきます。
①陰干しをする
まな板などの上にのせて、直射日光を避けた場所に置き1週間程度陰干しをして完全に水分を抜きます。時折、天地返しをしてまんべんなく乾燥させていきましょう。
②乾燥中のひと手間
表面から水分が抜けていき乾燥してしまうと、中心部の水分が抜けにくくなってしまいます。カビなどの可能性も否めないので、1日に1~2回日本酒を含ませたガーゼで拭き、適度に水分を与えながら乾燥させていきます。天地替えのタイミングで行うとよいでしょう。
カラスミの完成
大き目の卵巣が多かったので、10日ほど乾燥させたものです。あめ色に変化したカラスミの完成です。
すぐに食べない場合は、ラップで包むか真空処理して冷凍保存をしておきましょう。
カラスミの食べ方
カラスミの食べ方を知らないという人も見られます。ここではシンプルな食べ方を紹介します。
カラスミの皮のむき方
卵を覆っていた卵膜は口当たりが悪いので、皮をむいてください。まずは、血管が通っていた場所(くぼみができている場所)にV字型にナイフを入れていき、初めの足掛かりを作ります。
表面に日本酒を漬けて皮を柔らかくしておくと、皮がむきやすくなります。皮をむかずそのまま炙ったものを切って盛り付けるという食べ方もありますよ。
カラスミのおいしい食べ方
調理の際の食材として使う方法もアリですが、お酒のアテとして5mm幅にスライスしたカラスミを、2~3切れ盛り付けて、お酒とともに味わうシンプルな食べ方がおすすめです。味噌のまろやかな風味や歯ごたえのある食感が楽しめます。
三大珍味を家庭でも味わってみよう
カラスミの作り方と食べ方をまとめました。作り方の注意さえ気を付けて調理に当たれば、カラスミも自宅で作れます。時間と手間がかかりますが、最高級の珍味を家で味わってみませんか。丁寧に作るほど味がよく仕上がります。
参考動画
この記事は銀座渡利様の動画をもとに作成しました。
出典:写真AC